天然林の消失はキツツキが生態系で果たす役割を低下させる
天然林の消失は
キツツキが生態系で果たす役割を低下させる
bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院グローバルイノベーション研究院 小池伸介教授、同大学院農学府 安田和真氏(修士課程1年)、加藤大貴氏(修了生)、同大学院連合農学研究科 栃木香帆子氏(修了生)、大阪公立大学大学院理学研究科 吉川徹朗准教授、クイーンズランド大学 天野達也准教授らの国際共同研究チームは、ある森林のキツツキの生息数は周囲の天然林が消失することで減少し、さらにその結果としてキツツキが森林生態系で果たす役割も低下することを明らかにしました。本成果は森林生態系を健全に維持するうえでの、対象とする森林だけでなくより広域での人工林の管理手法の提案につながることが期待されます。
本研究成果は、12月16日付でGlobal Ecology and Conservationにオンライン掲載されました。
論文タイトル:Does forest loss and fragmentation reduce woodpecker-associated ecosystem functions?
論文タイトル:Kazuma Yasuda, Daiki Kato, Shoji Naoe, Tatsuya Amano, Tetsuro Yoshikawa, Kahoko Tochigi, and Shinsuke Koike
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2351989424005705
背景
人間活動による景観や植生の変化は世界的に広がっており、特に天然林の消失や断片化は地球上でもっとも深刻な環境問題とされています。日本では1950年代から1970年代にかけて、木材供給の需要増加に伴い多くの天然林(日本では主に広葉樹林)が伐採され、スギやヒノキといった針葉樹の人工林(注1)への転換が進みました。一般的に、天然林の消失や断片化は森林を生活の場とする生物種に悪影響を及ぼし、個体数の減少や種の絶滅のリスクを高めます。さらに、ある種の減少や絶滅はその種が持つ生態系サービス(注2)の低下にもつながります。たとえば、花粉の送粉や受粉を担う昆虫の減少は花粉媒介サービスの低下、種子の分散を担う動物の減少は種子散布サービスの低下など、天然林の消失や断片化は森林の生物の種多様性だけでなく、それらの種が担う生態系での働きの低下にもつながります。
森林に依存し、天然林が消失し断片化することで数を減らしやすい動物の一つにキツツキの仲間がいます。キツツキは広葉樹林に好んで生息し、営巣(注3)のために大きな木に自らのくちばしで樹洞(写真1)(注4)を掘り、さらに木に穴をあけることで、木の中に潜む食べ物となる虫を食べます。キツツキには森の生物多様性を維持するうえで、大切な役割がいくつかあります。1つ目は、樹洞を作ることで、自ら樹洞を掘ることができない鳥類や哺乳類に巣を提供します。2つ目は、木の中に潜み、木を食べて弱りかけた木を枯死に追いやるような昆虫を食べることで、木が元気に成長を続けられるよう、木を助けています。3つ目は、すでに弱った木や枯木に穴をあけることで、これらの木を倒れやすくする可能性が示唆されていますが、実際にキツツキの存在によって木が倒れることを促進しているのかどうかは、明らかにはなっていませんでした。森では木が倒れることで地面まで光が差し込むことになります。暗い森の中でも光が差し込む隙間(ギャップとも呼びます)が生まれることで、明るい場所を好む植物が現れ、さらにそういった植物を食べる動物が現れます。森林での適度なギャップの出現は、森林が森林であり続け、森林の生物多様性を維持していく上では重要な現象です。これまで、天然林の減少や断片化がキツツキそのものに与える影響は明らかでしたが、天然林の消失や断片化がキツツキの持つ生態系での働きに与える影響や、キツツキの存在がギャップを作り出すことを促進する働きは明らかになっていませんでした。
研究体制
本研究はbet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院農学府 安田和真氏(修士1年)、加藤大貴氏(修了生)、同大学院グローバルイノベーション研究院 小池伸介教授、同大学院連合農学研究科 栃木香帆子氏(修了生)、森林研究?整備機構森林総合研究所 直江将司主任研究員、大阪公立大学大学院理学研究科 吉川徹朗准教授、クイーンズランド大学 天野達也准教授(兼任 bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院グローバルイノベーション研究院?特任教授)で構成された国際共同研究グループによって実施されました。本研究はbet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院グローバルイノベーション研究院の支援を受けて行われました。
研究成果
今回の研究では、多くのキツツキが生息する天然林(広葉樹林)は、周辺にも多くの広葉樹林が存在する森林であり、胸高直径(注5)の大きな木が多く生育するという特徴が認められました。さらに、このような森林では数年後にはキツツキによって作られた樹洞が多く確認されるとともに、倒木も多く確認されました(図1)。この結果はキツツキが森で倒木を発生させるうえで重要な役割を持つことを初めて検証した事例となります。なお、木が倒れる原因にはキツツキの働き以外にも様々な原因があります。たとえば、胸高直径が大きい木ほど腐敗が進む傾向があります。しかし、今回の結果では、倒木が多く確認された森林には、胸高直径が大きい木が多い傾向は認められませんでした。また、雪や雨、風などで木が倒れることもありますが、倒木が多く確認された森林には、雪や雨、風の影響を受けやすい林縁部(注6)が多いなどの傾向が認められませんでした。このことは、今回の結果が森林の断片化ではなく、消失がキツツキの生息およびキツツキの働きに影響することを示唆するものです。
また、本研究では小型のキツツキ(コゲラ)の生息数のみで、これらの関係が認められました。その理由として、本調査地では、天然林の周囲の多くが人工林に囲まれています。さらに、それらの人工林は植栽から数十年ほど経過し、樹高(注7)が高く、比較的太い木で構成されています。そのため、人工林であっても大型キツツキにとって営巣可能な木が生育していたことから、ある天然林の周りに人工林が多く存在したとしても、大型のキツツキの仲間には影響が小さかったと考えられます。
今後の展開
本研究では、森林の消失が小型のキツツキの減少を引き起こすだけでなく、キツツキが持つ樹洞を形成する働きや倒木の発生を通じた森林の更新を促進する働きまでも低下させる可能性を示唆しています。適度な倒木の発生は森林の健全な更新には不可欠な現象であり、森林に生活する多くの生物の生活場所を創造するうえでも欠かせません。
日本では天然林(主に広葉樹林)と針葉樹の人工林がモザイク状に広がっている地域が多く見られます。こういった地域において、残された天然林の生物多様性を高め、健全な森林生態系として維持するためには、周囲の人工林の管理を計画的に進めていく必要があります。たとえば、残された天然林との位置関係を考慮して、人工林としての管理に向かない地域を広葉樹林に誘導することが考えられます。また、成熟した人工林は大型のキツツキ類に必ずしも負の影響を与えなかったことから、伐採予定の人工林が特定の地域や特定の時期に集中し過ぎないようにするといった、時間スケールのみならず空間スケールも考慮した人工林の管理計画の策定が求められます。
用語解説
注1)人が播種(種を蒔くこと)もしくは苗を植えることによって成立した森林。
注2)人が自然環境から得られる恩恵。森林の生態系サービスは森林の多面的機能とも呼ばれ、多面的機能から木材生産機能を除いた機能は公益的機能と呼ばれる。
注3)巣を設け、その中で産卵し、孵化したヒナを育てること。
注4)樹木の幹や太い枝にできた洞窟状の空間。枝が折れ、樹皮がはがれて内部が腐ったり、キツツキの仲間が巣穴を掘ったりすることによって形成される。
注5)立っている木に人間が並んで立った時に、人の胸の位置に当たる樹幹の部分を「胸高」といい、その高さでの木の直径を「胸高直径」と呼ぶ。山側の地面から1.2m(北海道では1.3m)の位置で測定する。
注6)森林が草地や裸地などと接する。森林の外縁部分。
注7)樹木の地面から樹冠の一番高い部分までの高さ。
◆研究に関する問い合わせ◆
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小池 伸介(こいけ しんすけ)
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